この記事では、日本国における「知的財産法」分野の全体像を生成AIとの関係から概説します。
(TwitterのGrokで「AIと知的財産法の話っぽい画像」と打って生成しました)
☆ 知財法とは?
まず、知的財産法とは一般には「著作権法」「特許法」「商標法」「意匠法」「実用新案法」「不当競争防止法」などをまとめた法体系を指し、権利者の発想やこれを表現した無形・有形の財産権、及びそれらに係る権利者の人格権を定義・保障するとともに、それによって産業全体の有益な発展を促し、また公正な市場競争を担保するといった政策的理念が基礎となっている一連の法分野を意味します。
財産権とは通常、例えば動産の所有権や不動産の賃借権などを意味しますが、知財法分野では著作権や特許権を指し、第三者による不当な剽窃を防げるメリットや、盗用された場合には権利者に損害賠償請求権を生じさせる根拠となる法律的な権利を含みます。また知財法分野における人格権は財産権と区別され、例えば著作権法においては「著作者人格権」と呼ばれ、公表権・氏名表示権・同一性保持権といった請求権を含んだものです。
☆ 各法令について
各法律の保証する対象、発生基準(認定要件)、存続期間は以下の通りです。
法令 |
保護対象 |
発生・許認可要件 |
存続期間 |
著作権法 |
思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの |
著作者が原始的に取得 |
著作権は生涯+死後70年、著作者人格権は生涯 |
特許法 |
自然法則を利用した技術的思想の創作の中でも高度な発明 |
特許庁に出願 新規性+進歩性+産業利用可能性 |
20年 |
商標法 |
商品やサービスに付された文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩、また音声等 |
特許庁に出願 自己の業務に利用+識別力+独自性 |
10年 |
意匠法 |
視覚を通じて美感を生じさせる工業的なデザイン |
特許庁に申請 工業利用可能性+新規性+創作非容易性 |
25年 |
実用新案法 |
自然法則を利用した技術的思想の創作のうち物品の考案に関するもの |
特許庁に申請 物品の形状、構造または組合せに係る考案であること、公序良俗、請求範囲の適合性 |
10年 |
不当競争防止法 |
事業者間の公平な競争、市場の秩序 |
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また、先述の「著作者人格権」=公表権・氏名表示権・同一性保持権の定義は以下の通りとなります。
公表権 |
著作者が未公表の著作物の公表時期・方法等について決定する権利 |
氏名表示権 |
著作者がその著作物の公表について、氏名を掲示するか否かやその名義を決定する権利 |
同一性保持権 |
著作物について無断で改変・修正等をされない権利 |
まず著作権についてですが、上記の法律の中では最も対象が広く、また利用頻度も高い知的財産権であると言えます。特許権・実用新案権・商標権・意匠権といった「産業財産権」とは異なり、行政庁への登録申請といった手続を要することなく、著作物が創作された時点で自然的に発生し著作者に帰属する点が大きな特徴です。また産業財産権とは異なり、著作権の保護期間は死後にまで及んでいる点も特徴となっています。
ついで特許権について、これは既存の産業には見られなかった特許対象特有の新規性、また何らかの公益に資する進歩生や産業分野での具体的な利用可能性が要件となっており、政策的なニュアンスが反映されているものと見る事ができます。図画や音声など様々な手段・媒体で示される商標や、主に工業デザインを対象とする意匠、また特許法で求められる水準ほどには高度ではないにせよ何らかの独自の意義を有する実用新案に関しても、それぞれに特許庁による独占的な権限を与えるに足る要件が課されています。
上記の中でも不正競争防止法については、他の法律とは規制構造や目的自体が若干異なっているため注意が必要でしょう。この法律は事業者の営業上の利益の保護および権利回復の手続等について規定しており、民法の不法行為編では認められていない差止請求を規定したり、また各知財法でカバーされていない権利保護のための領域を包括的に補完している点に特色があります。具体的には、アイデアの剽窃や営業秘密の侵害、情報の不正取得・利用、また虚偽の流布といった一般的な信用毀損行為を禁止し、かつ違反時の罰則等を規定しています。
☆ AIと知財法
AIとの関係としては、開発・利用時における著作権や各産業財産権との調整、また生成AIによる不法行為の予防、損害賠償時の責任の帰属等が問題となるかと思います。
AIを開発する際には、動作の基となる教師データを収集し、必要に応じて改変したり混合させたりして学習させる場合もありますが、膨大なビッグデータを扱う上はいちいち著作権者による利用や改変の同意を得る手間を掛ける訳にはいきません(著作権者の側から見ても非常に煩雑な手続きとなる事でしょう)。
この点、著作権法30の4条がAI学習について規定している条文として大いに参考となります。これは著作権の制限(著作権を主張する権利者「に対する」制限=著作権の保護の適用外)を定める第三節の第五款に置かれているもので、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」、即ち情報解析や専ら情報それ自体としてAI開発に用いる目的のみに用いるのであって、その著作物による刺激や効用を享受するためではないと判断される一定の場合には、例外として著作権保護のための制約が利用者に適用されず、自由に著作物を用いる事ができるようになる旨を定めた条文です。
しかし、上記は2018年の著作権法改正で導入された比較的新しい条文であることもあって、例えば「次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」なるものが具体的にどの場合にまで当てはまるのかは未だ判例が充分に蓄積されているとまでは言えず、解釈に委ねられているものと言えましょう。
また、AI開発時点での権利調整のみならず、運用面での利用者に対する損害の発生などについても、前述の通りAI分野に特化した固有の法典がないため、現状は民法は製造物責任法、不正競争防止法などで対処することになります(かつ、これでも殆どの紛争類型については実際には充分であるとも言えます)。
知的財産分野の法制やAIとの関係についての説明は以上となりますが、より詳しく知りたい方は参考文献もご覧ください。
※ 参考文献
愛知靖之、前田健、金子敏哉、青木大也『知的財産法 第2版』(2023、有斐閣)
https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/developing/training/textbook/document/index/Introduction_to_The_Intellectual_Property_Act_JP.pdf (最終閲覧:2025/4/5)
https://studying.jp/chizai/about-more/various.html (最終閲覧:2025/4/5)
https://biz.moneyforward.com/contract/basic/4812/ (最終閲覧:2025/4/5)
https://www.yuasa-hara.co.jp/lawinfo/5047/ (最終閲覧:2025/4/5)